市來健吾の日記

プログラマ、(元)物理屋(ナノテク、流体)

amazon.co.jp のお勧めに 「謎とき『カラマーゾフの兄弟』」 ってのがあって、そこからいろいろとさまよった


  • 第九百五十夜【0950】04年3月18日 フョードル・ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』(全4冊)
    高校時代、3つのショックがあった。 … そしてもうひとつ、これはクラスメイトで一番親し い友に問われたことなのだが、「大審問官の問題をど う思うか」というものだ。「何、それ?」と聞き返し て、なんだ、カラマーゾフを読んでいないのか、話に ならないなと突っぱねられた。読んでいないのだか ら、これは最初からお手上げだ。それまで『罪と罰』 しか読んでいなかった。

    さあ、これでどうだろうか、安田毅彦よ。  カラマーゾフを読んでないなんて話にならないと告 げた安田よ。早々に癌を背負って、さっさと八ッ岳の 地霊となって消えたいった友よ。  これでぼくはイヴァンにもゾシマにも、アリョーシ ャにもならずに済んだだろうか。ともかくも、これで おまえが大審問官でありつづけなければならなかった 仮の役割は、やっと終ったのだ。ここまで待たせてし まったこと、謝りたい。

  • 第二百三十九夜【0239】2001年2月28日 宮本常一『忘れられた日本人』
    九段高校の親友に安田毅彦がいた。高校時代は水泳 部のキャプテンをして、東工大に進んでからは建築土 木を専攻し、日本一の土木設計集団のパシフィック・ コンサルタントに入って将来を期待されたが、ソリが あわずそこを脱出、自分でフィールドワークをくっつ けた設計の仕事をしつづけいていた。高校のころから の数学の天才でもあった。ぼくに及ぼしたものが少な くない。  が、40代半ばで癌で死んでしまった。最後は八ヶ岳山麓に住み、自分の小水を一晩冷蔵庫で冷やしてこ れを毎朝一息に呑みほしていた。それが癌に効くとい う信念からだった。  その安田が宮本常一を確信していた。宮本常一のよ うに歩き、宮本常一のように考え、宮本常一のように 生きたいと言っていた。実際にも頑固な人生の後半を そのように送っていた。宮本常一の“存在”を確信し ていたのだ。その安田に「おまえも読めよ」と言って 勧められたのが『忘れられた日本人』だった。  実はそれまでにざっと読んでいたのだが、とうてい 安田のようには読めてはいなかったことを知っていた ので、黙って「うん、ゆっくり読むよ」と返事をし た。

  • 第三百夜【0300】2001年5月25日 ハーマン・メルヴィル『白鯨』
    この大作は、ぼくがまったく持ち合わせていない才 能と力量と意志で描かれている。それだけにこれを読 んだ高校時代のことが忘れられない。イシュメールに 逃げたのだ。  友人の安田毅彦はエイハブ船長に入っていったよう だ。「松岡はスピリットが好きなんだろう」と英語の 得意な安田はそう言った。そして加えた、「おれはソ ウルが好きなんだ」。これは痛かった。しかし、エイ ハブに入るとは、そのソウル(魂)を悪の起源にまで さかのぼり、そこからまさに銛でモービィ・ディック を撃つように、現実の闘争に逆上してこなくてはなら ない。そのうえでエイハブをイシュメールから眺めな おすということになる。  そんな強靭な読み方が安田にどうしてできるのだろ うか、と驚いた。しかし安田は『カラマーゾフの兄 弟』においてすら大審問官の側に立てた男だったか ら、あるいはエイハブの魂が痛いほどよくわかるのか もしれなかった。

  • 安田毅彦 経歴